あの日、
音楽を聴いていた私は、ふいに肉体の感覚を超え、
光の粒子となり、宇宙に溶けていくような感覚に包まれた。
魂が目覚め、
誰かの魂と共鳴するような、不思議で美しい体験だった。
「この感覚を、どうしても記しておきたい。」
その想いに駆られて、今こうして言葉を紡いでいる。
＊＊＊
それは本当に突然のことだった。
仕事を終え、疲れた体をソファーに預け、
イヤフォンからお気に入りの音楽を流していた午後。
外は暖かく、部屋の中は少しひんやり。
窓から入る柔らかい風が心地よく、心身ともに緩んでいた。
やがて、まぶたの裏に光の粒子が現れた。
それはピンクと青、二つの光だった。
光はさらさらと流れるように動き、柔らかく輝いていた。
ふと気づくと、私はその青い光そのものになっていた。
イヤフォンから聞こえる音楽に合わせ、光が優しく波打つ。
ピンクの光は、その音楽の振動そのものだった。
まるで引き合うように、二つの光が少しずつ近づいていく。
そして接した刹那、二つはまばゆい白い光となって弾けた。
＊＊＊
白い光となった私は、心の奥でこんなことを感じていた。
「制限がない（肉体がない）って、なんて自由なんだろう！」
「なんて軽やかで、心地良いのだろう！」
「嬉しい！楽しい！ワクワクする！」
「この私でどこまで拡大できるか、試してみたい！」と。
同時に、言葉では形容し難い圧倒的な感覚が、体中を駆け巡る。
まるで、全身全霊で、この喜びを宇宙中に示したがっているかのようだった。
私はその時、自由と喜びという”感覚そのもの”として存在していた。
そして、この喜びを表現するかの如く、光の私は宇宙の果てをめざして急速に拡大していく。
無限にきらめく星々を、銀河を、すべてを包み込みながら。
＊＊＊
けれど、ある瞬間、はたと気づいてしまった。
どれだけ広がっても、宇宙の果てには辿りつかないことに。
まるで私が拡大するのと同時に、宇宙も拡大してるかのようだった。
最初は歓喜だけだった私の中に、一滴の墨のような感覚が混じる。
「……あれ？宇宙って果てがないの？どうしよう…。ちゃんと戻れるのだろうか？」
「怖い……！」
その“恐れ”が生じた瞬間、
私はふっと目を覚まし、光の旅は終わったのだった。
＊＊＊
目が覚めたあと、しばらく呆然としていた。
「ここはどこだろう？」
「私は誰だろう？」
やがて、少しずつ記憶が蘇ってくる。
「ここは地球で、私はソファに横たわって、音楽を聴いていた…。」
一つひとつ思い出すことで、ようやく現実に戻ってくることができた。
どれくらいの時間が経っていたのかはわからない。
数分だったのか。
何十分だったのか。
もしかしたら、一瞬の出来事だったのかもしれない。
それを知る術がないことが、少し残念だった。
だが、ただ一つはっきりしていることがある。
あの鮮烈で圧倒的な『制限のない自由と喜びの感覚』だ。この感覚が胸に生々しく刻み込まれていたのだった。
私は初めて、
「制限のない自由」が、これほどまでに甘美で、心躍るものだと知った。
「こんなに嬉しいの！楽しいの！この私を見て！」という姿は、まるで無邪気な子どものようだった。
あれは”魂の歓喜のダンス”だったのかもしれない。
これは一生忘れられない出来事になるだろう。ーーそう確信している。
＊＊＊
私に起きたこの共鳴体験の意味は、正直今もわからない。
けれど、私の中に残った感覚は今なお息づいていて、それは間違いなく私の真実だ。
月並みだけれど、
本当に、楽しかった。
制限のない自由はエクスタシーそのもので、
「ああ、そりゃ魂も歓喜するよね」と、心から納得できた。
また、いつか。
あの美しい光に出会える日が来たら――。
そう願わずにはいられないほど美しかった。
あの光景が瞼の裏に焼き付いて離れない。
静かな熱を持て余した私の頬を、柔らかい風が撫でていった。
