言葉にしなくても、伝わるものがあります。
ふと交わした眼差しや、何気ない微笑み。
そこに言葉以上の何かを感じる瞬間があります。
今回描いたのは、蓮の花。
いくつもの色が溶け合うマーブル模様の中に、静かに咲く姿を描きました。
テーマは「拈華微笑(ねんげみしょう)」。
言葉を超えたところで、心から心へ伝わっていくもの。
そんな静かな光を、一枚の絵に込めました。
今回の作品

今回モチーフに選んだのは『蓮』です。
背景には数種類のアクリル絵の具を使い、それぞれの色を混ぜ合わせながらマーブル模様を描きました。
完全に一色へ溶けてしまうのではなく、それぞれの色を残したまま、ひとつの世界になっていく。
そんな色の重なりが、この作品の大きな特徴です。
さらに背景のアクリル絵の具には厚みを持たせ、表面に凹凸をつくっています。
その上に描いた蓮は、水彩ならではの繊細で平面的な表現。
立体と平面。
重さと軽やかさ。
異なる質感がひとつの画面の中に存在することで、見る角度によってさまざまな表情を感じられる作品になりました。
このボタニカルアートについて
今回の作品で特に大切にしたのは、「違うものが、違うまま一緒にある」という感覚です。
背景には、いくつもの色があります。
質感も均一ではなく、絵の具が盛り上がっているところもあれば、なだらかなところもあります。
一方、蓮は水彩で静かに描きました。
背景とは画材も質感も異なりますが、どちらかが目立ちすぎるのではなく、ひとつの作品として自然につながっています。
違うからこそ生まれる美しさ。
その対比も、この作品で楽しんでもらいたいところです。
この作品のテーマ
今回のテーマは、「拈華微笑」です。
拈華微笑とは、禅の故事に由来する言葉です。
釈迦が説法の場で言葉を発する代わりに一輪の花を掲げ、それを見た摩訶迦葉だけが微笑んだ——という故事から、言葉を介さず、心から心へ伝わることを表す言葉として知られています。
この言葉を知った時、私はとても静かな美しさを感じました。
すべてを説明しなくてもいい。
言葉にならないものにも、ちゃんと意味がある。
一輪の花を見て、ただ心が動くこともそのひとつなのかもしれません。
この作品も、意味を探すより先に、まず感じてもらえたら嬉しい。
そんな想いで描きました。
モチーフに込めた意味
「拈華微笑」というテーマから、今回モチーフに選んだのが蓮でした。
静かな水面から茎を伸ばし、すっと花を咲かせる蓮。
華やかでありながら騒がしさはなく、その姿を眺めていると、自然と意識が内側へ向かっていくように感じます。
何かを強く主張するのではなく、ただそこに咲いている。
それだけなのに、見る人の中に何かを残していく。
そんな蓮の佇まいが、今回描きたかった「言葉を超えて伝わるもの」と重なりました。
色彩と背景に込めた光
今回の光は、一筋の光として描いているわけではありません。
背景に広がる、さまざまな色そのものを「光」として捉えています。
違う色が出会い、重なり、混じり合う。
それでも、それぞれの色は完全には失われていません。
ひとつになるということは、同じになることではなく、それぞれが存在したまま調和していくことなのかもしれない。
そんな「統合」のイメージを、マーブル模様の中に込めました。
光もまた、ひとつの色だけでできているわけではありません。
さまざまな色が重なり合いながら、この作品全体を静かに包んでいます。
制作中に感じたこと
背景をつくっている時は、完成形をすべて決めていたわけではありません。
絵の具が混ざり、流れ、偶然できる模様を見ながら、その時に生まれたものを残していきました。
そこへ水彩で蓮を描いていくと、それまで自由に動いていた背景の中に、静かな中心が生まれたように感じました。
動いているものと、静かなもの。
立体的なものと、平面的なもの。
違う表現を重ねているのに、不思議とひとつにまとまっていく。
その変化を眺めている時間そのものが、とても心地よい制作でした。
この作品が寄り添う人・場面
- 静かに自分と向き合いたい時
- 言葉にできない気持ちを抱えている時
- 頭で考えることから少し離れたい時
- 心を落ち着かせる時間が欲しい時
- 自分の感覚を大切にしたい時
この作品を見た時に何を感じるかは、人によってきっと違います。
だからこそ、決まった答えを見つけなくても大丈夫。
ただ眺めて、何かを感じる。
そんな時間に寄り添う一枚になれたら嬉しいです。
この作品と暮らす時間
この作品は、見る距離や角度によって印象が少し変わります。
離れて眺めれば、マーブル模様の中に静かに咲く蓮が目に入り、近づけば、盛り上がったアクリル絵の具の凹凸や、水彩で描いた花との質感の違いが見えてきます。
朝の自然光が入る場所では、背景の立体感がやわらかく浮かび上がり、時間によって変化する陰影も楽しめるでしょう。
慌ただしい一日の途中で、ふとこの蓮を見る。
何かを考えるわけでもなく、ただ数秒眺めてみる。
そんな小さな時間が、外へ向いていた意識を自分の内側へ戻してくれるかもしれません。
飾るためだけではなく、暮らしの中に「静かに感じる時間」をつくる一枚になれたらと思っています。
おわりに
言葉で伝えられることは、たくさんあります。
でも、言葉にならないからこそ伝わるものもある。
花を見て美しいと思うこと。
色に惹かれること。
理由はわからなくても、なぜか心に残ること。
今回の蓮には、そんな目には見えない心のやり取りを「拈華微笑」というテーマに重ねました。
さまざまな色が溶け合う光の中で、静かに咲く一輪の蓮。
この作品を目にした時、言葉になる少し前のところで、あなたの心に何かが届いたら嬉しいです。











